アンティーク
「どうしたんじゃ?」
コーヒーを2つ手に持ち、店長は俺のところに来た。
コトンと、目の前に空が置かれてその匂いが鼻に入ってくる。
「将生に、酷いことを…………言ってしまいました」
「ほお」
「今までの関係性を壊しかねないことなんです」
「なぜ、そんなことを?」
分かってる。
もう、この心を認めなければならないことは。
「好きな人が、多分、将生のことを好きだからです。それで、嫉妬して…………」
「それは、辛いのお」
「でも、あんなことを言うべきじゃなかった。店長なら、きっと分かるでしょう? ハーフというだけで虐められて居場所が無くて、その時の辛い気持ち」
「ああ、そうじゃな。私はフランスにいたんじゃが、同じようなことがあった」
店長は遠くどこかを見つめていた。
「それで、将生とその好きな人もどうせ俺のことをそんな風に見てるんだろって…………言ってしまったんです。そうじゃないと、自分だけが除け者にされているその状況に耐え切れそうになかったから……」
涙と同時に鼻水も出てきて、一度それを擤んで話を続けた。
「全然関係ないのに……。むしろ将生と玲奈さんはそんなの関係なしに接してくれた仲間だったのに」
後悔しても、後悔しきれない。
外では、急に雨が降ってきた。
さっきまで明るかった空が、急に暗くなって部屋の中もそれに伴い明るさが小さくなる。
「…………通り雨かのう」
店長は、その空を見ながらコーヒーを飲んだ。