アンティーク
「いただきます」とだけ言って、あとは無言で目の前にあるお菓子を食べる。
何を言えばいいのか、どういう顔をしたらいいのかが全く分からない。
本当に、俺は2人の邪魔なんかしたくないし、いや、そもそもどうして邪魔をすることなんてできるのだろう。
「将生、その……」
「今度、デート誘う」
吹っ切れたように将生は言った。
「え? ああ、うん、そうしなよ」
その言葉は、待ち望んでいたはずの言葉なのに、やはりそれを心から喜べない自分がいて、俺は表情を見られないように横を向く。
閉じたくない。
また、昔の様に心を閉ざしたくない。
「楽しんできなよ」
言葉を発するほどに、その心の扉から漏れる光が小さくなっていく。
「ああ」
ああ、僕の中のもう1人の僕が笑っている。
お帰りと、不気味な笑い声と共にそう僕に囁いている。
先ほどの店長の言葉を、その俺は消してしまっていた。
「俺、そういえば絵出したままだった。大学に帰らないと」
「俺も戻るよ」
「……うん」
空を見ると、雨はもう止んでいてグレーの色が街中に広がっていた。