アンティーク
「レオくん、この絵の具貸してくれる?」
「ああ、いいよ。どうぞ」
あの日から数日が過ぎて、今は授業中だ。
「レオくん、なんか変わった?」
隣に座っている同じ学科の同級生はそう言ってきた。
「そう? …………変わらないよ」
「そっか……勘違いだったかな。あ、じゃあ借りるね」
「どうぞ」
笑顔を一日中貼り付けることは、得意だった。
小学生、中学生と、その仮面をつけてずっと過ごしていたのだから。
口角を上げてさえいれば、その裏で僕がどんなに泣いていようが叫んでいようが、誰にも悟られることはない。
これは、自分を守るための戦闘服のようなものだ。
「ありがとう」
「うん」
午前中の授業も終わり、将生と一緒に学食に来る。
「玲奈さんは誘ったの?」
仮面を被った自分にとっては、玲奈さんの話題をしても何も感じることはない。
仮面はすべての感情を俺の中に押し込めて何も感じなくさせる。
喜びの感情さえも、隠してしまう。
「いや、まだ」
「早くしないと、きっと待ってるぞ」
将生を急かす。
「ああ」
「ほら、今しなよ。絶対1人だとしないでしょ」
「分かったよ」
目の前でメールを打つ将生を、笑みを浮かべながら俺は見る。
2人は、どんな風にデートをするんだろうと妄想までしてしまう。
妄想をしたって、僕は何にも感じない。