アンティーク
 
あっという間に17時50分になった。

将生は、「じゃあ、俺、病院行くからちゃんとサンドウィッチの味覚えて報告してくれよ」なんて言い残して1人先に大学を出て行ってしまう。

サンドウィッチの味なんて、楽しむ余裕が俺はあるだろうかと悶々としながら正門に行くと、すでにそこには玲奈さんの姿があった。

その姿を見ると、一気に緊張してくる。

「ごめん、待った?」

「いえ、今来たところです」

彼女の目が僕を捉える。

「よかった。ごめんね、将生来れなくて」

きっと、本当は将生に来てほしかったはずなのに、病院なんていつでも行けるだろう。

「いえ、久しぶりにレオさんと会えたので、嬉しいです」

話していると、以前に会った時よりも、彼女の中で何かが吹っ切れたような感じが伝わって来て、その表情は明るい。

多分、将生が言っていたことなんだろうなと1人納得してしまう。

「じゃあ、行きましょう」

「うん」

空の下を2人で歩くのは、数回目だろう。

空は、もう暗くなっている。

その時よりも妙に緊張して、外はだいぶ冷えているのに、玲奈さんのいる左側が右よりも熱く感じてしまう。

沈黙は今の自分にとっては耐えがたいもので、何か話題を探した。

「そのサンドウィッチって、どんな感じなの?」

「将生さんところは食パンじゃないですか」

「うん」

「そこは、バゲットのサンドウィッチなんです」

俺の頭の中では、はっきりとその姿は思い浮かぶ。

「ああ、なるほど。それは美味しいねきっと」

「はい、とても美味しくて、ぜひ2人にもと思って」

きらきらと輝かせた目をこちらに向けて来た玲奈さんの視線があまりにも純粋そのもので、俺にはその目が眩しくて、ついそらしてしまう。
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