アンティーク
「あ、えっと、とにかく、美味しいんです。でも、やっぱり迷惑でしたよね……」
俺が顔を背けたせいか、彼女の声は急に小さく低くなり、その声を聞いた瞬間に後悔が押し寄せてくる。
「いや、あの、今のは違うんだ。目をそらしたのは、その……玲奈さんの表情がその……可愛くて。見てるこっちが恥ずかしくなって……」
ああ、俺は何を言ってしまっているんだろう。
可愛い、なんて言葉を使ってしまったせいで余計に彼女の顔が見られなくなってしまう。
絶対に、今の自分の顔は林檎のように赤いと分かる。
「あ、ありがとうございます……」
微妙な空気が俺と玲奈さんの間に流れてしまう。
「そ、そういえば将生がさ、この間顔に絵の具付けたままアンティーク店来てさ」
と、玲奈さんの方を向いた。
その声に反応し、玲奈さんも俺の方を向く。
その顔は、街の明るい光に照らされていて、きっと俺の顔くらい赤くて、目なんかも潤っていて、どうしてそんな玲奈さんを見て恋心を閉ざしておこうと思うことができるだろうか。
「お、俺……」
「あ、将生さん」
玲奈さんの視線の先には、確かに将生の姿があって、その手には紙が数枚ある。
「あれ、2人とも」
その姿を見た瞬間、心が落ち着いてくる。
「病院は?」
「今終わったところ。今から薬貰いに行こうと」
それなのに何処かへ行こうとする将生を引き止める。
「そ、それは明日でもいいだろ? な、お腹空いてるだろ将生も」
2人だけのこの空気は、今の俺には刺激が強すぎて、俺は将生の腕を掴んだ。