アンティーク
狭い部屋の中に、自分の弾くヴァイオリンの音と岡田さんのピアノの音が充満する。
「音、最近明るくなりましたね。何か、ありましたか?」
練習中、伴奏を務めてくれている彼に言われる。
「ちょっと、気持ちの変化というか」
伴奏者が見つからない時、岡田さんは何故か自分から話しかけてくれて、それ以降ずっと伴奏をしてもらっている。
「気持ちの変化?」
岡田さんとはこういう時にしか会わないせいで、お互いのことを多分ほとんど知らない。
お喋り好きな女の人と違って、あまり話さない男の人である岡田さんは、私にとってはちょうど良い。
だけど、今日はいつもよりも会話が多い。
「その…………恋をしたというか」
その単語をいざ声に出すと、恥ずかしさは何倍にもなる。
「へえ、なるほど。だから、音が輝いてるんですね」
岡田さんは、歯の浮くようなセリフを時々言う。
「お相手は、さぞ良い人なんでしょうね。こんな音にするくらいですから」
「まあ、…………そうですね」
レオくんの顔が浮かぶと、自然と笑みがこぼれてしまう。
「どんな方なんですか?」
「優しくて、穏やかで、笑顔が素敵な人……ですかね」
誰かにレオくんのことをこんな風に話したことがないから、どこか嬉しくて、でもどこかこそばゆい気持ちになる。
ソワソワしてしまう。