アンティーク
「へえ、そんな理想的な人がいるんですね」
「はい」
「もしかして、美術の工藤レオですか?」
あまりにもピンポイントにその名前を出すから、聞き間違いかと思ってもう1度聞いてしまう。
「え?」
「すみません、この前2人で歩いているところ偶々見かけたもので」
「そうなんですか」
「正直言うと…………彼はあなたには合わないと」
岡田さんは、無表情でそれを言う。
その目は、笑っていない。
「僕は、あなたの少し影のある音が好きで、あなたの伴奏をしたいと願いでました。でも、今のあなたの音には興味がない」
「そんなこと…………」
「責めているのではないですよ。僕は、前のあなたの音が好きだと言っているんです。だから、変わって欲しくなかった。僕が伴奏をやる意味が無くなってしまった」
「それは、…………困ります」
今更、ピアノ科の友達がいない私がどうやって伴奏者を見つければ良いのだろうか。
それは、無理に等しい。
「それなら、彼への恋は諦めてください。音楽の為ですよ」
彼はそれを躊躇いなく話す。
今の私には、それに対して「嫌です」という一言が言えなかった。
「それに、恋がしたいなら僕がその相手になってあげましょう」
「何を言ってるんですか?」
「あなたの音に惚れているということは、あなたに惚れていると言っても過言ではないでしょう」