アンティーク
僕はその事実に落胆せざるを得なかった。
彼女も、結局そこらへんにいる女子と変わらないのかと。
たかが男一人の為にあの音を変えてしまうなど、そんなことはあってはならない。
だから僕は、彼女から彼と言う存在を消したくなった。
そうすればきっと、またあの哀愁漂う音を鳴らしてくれると思ったから。
彼女に言っただけではきっとその効果は薄いと思った僕は、彼のアルバイト先を調べてそこに行った。
「いらっしゃいませ」
男の俺でも嫉妬したくなるほどの整った顔がこちらを見て、笑顔を浮かべている。
こいつだ、こいつこそが俺の敵だ。
「どうぞ、見ていってくださいね」
声までも、滑らかで耳に心地よい。
「ありがとうございます」
とりあえず店内を見て歩く。
すると、もう1人誰かが入ってくる音が聞こえてきて、僕は思わず柱の裏に隠れてしまった。
「玲奈さん」
それは、彼女の名前だった。
彼女は、僕があれほど言ったのにも関わらず、懲りなく彼に会いに来る。
やっぱり、あいつは邪魔だ。
「こんにちは」
「あ、玲奈さん。あとで渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの、ですか?」
「うん」
ちらっと見えた彼女の顔は、笑っていた。
こんな顔、見た事が無い。
なぜだか、彼女の音を守りたいと言う気持ちだけではなく、その彼女の笑顔を僕にも向けてほしいという気持ちが、自分の中で生まれる。
そんなこと、誰にだって一度も思ったことはないのに……。