アンティーク

彼女がこっちに近づいてくる音が聞こえる。

今ここで姿を見られたら、それはまずい。

彼女がこちらに近づいてくるテンポと合わせて、僕は逆方向に歩いていく。

運よく、まだ彼女は僕には気が付いていない。

それに、彼女は商品を夢中で見ていて、他人のことなど全く気にしていない。

彼女が見ている後ろでささっと移動してギリギリのところで足早に扉に向かうと、僕は急いで店を出た。






外に出たあとも、早歩きでここから建物の前から去る。

先程聞いた会話から、彼が彼女に好意があることをなんとなく感じ取った。

もし付き合いでもしたら、それこそ手遅れになる。

彼女が彼の気持ちに気が付いていないであろう今が、手を打つタイミングに相応しい。          
………………しかし、どうすればいい?

彼女に恋人ができたという嘘なんてすぐにばれる。

ああ、そうだ。

彼女が彼に会う時間が無くなれば、彼の頭の中からどんどんと彼女の存在が薄くなってくるかもしれない。

所詮、音楽学部と美術学部なんてほとんど共通点などないのだから。

それを考えるとすぐに僕は、彼女にあるメッセージを送る。

一旦、これで様子を見よう。
< 93 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop