アンティーク
「岡田さん。昨日のメッセージって…………」
「見てくれました? せっかくだし、コンクールに応募してみてもいいんじゃないかと思ったんです」
彼女が僕を警戒しているのが、嫌でも伝わってくる。
最初に、あんなことを言ったのは完全な失敗だった。
警戒心を持たせたら、後々に響くことくらい分かっていたことなのに、どうしてあの時の僕はそれを考えられなかったんだ。
「でも、岡田さんこの前私の音が変わったといいましたよね? それでいいんですか?」
「ああ、…………考えたんですけど、表面の音は変わったって根本的なものは変わらないですよね。僕が間違ってました。謝ります。それに、もし彼に影響されて変わった音で優勝出来たら、それは彼のお陰です。きっと彼も喜んでくれますよ」
まず初めに、この警戒心を解かないことには、僕の話なんてきっと一切聞いてくれないだろう。
「このコンクールはそんなに難易度が高くないし、腕試しだと思って。せっかく、芸大にいるんだし」
「確かに……せっかくだし…………。私もそろそろコンクール、出ようと思ってたところなので。もう、…………この前みたいなこと言わないですか?」
「もちろんですよ。言いません。ところで、その鏡、可愛いですね」
彼女の鞄からちらっと見えているアンティーク調の鏡は、目を引く。
「これは…………レオくんからもらったんです」
彼女は頰を紅潮させる。
「…………ああ、そうでしたか。よかったですね」
ああ、なるほど。
この前の贈り物はきっとこれに違いない。