アンティーク
「そうですね。食べましょう」
「はいっ」
なんだか、急にとてつもない罪悪感に襲われる。
一体、僕は何のためにこんなことをして想い合っている2人の邪魔をしているのか。
彼女の音だって、あの哀愁漂うものが一切消えたわけじゃない。
ただ、その哀愁にプラスして晴れ晴れしさを感じさせる音も奏でられるようになった。
それだけのことだ。
そんなの、考えれば演奏家として素晴らしい事じゃないか。
僕の耳はその晴れ晴れしい音だけに神経を尖らせていた。
そうか。
本当は、僕じゃない他の人が、しかも美術学部の彼が彼女を変えさせて、その性格までをも前向きな方向へと導かせたことに嫉妬していたのか。
僕は「本当に」彼女自身にも惚れていたんだ。
きっと、あの時、彼女の音を聴いたあの時から……。
だから、こんなにも工藤レオの存在に心が乱されるのか。
そう自覚すると、彼女を彼の所に行かせたくないという願望はより一層大きくなる。
演奏家としても、1人の女性としても、僕の隣にいて欲しい。
どうせ工藤レオなんて、彼女じゃなくてもたくさんの異性が寄ってくるはずなのだから。