アンティーク

「玲奈」

「……あ、はい」

彼女はまだその呼び方に慣れていないようで、一瞬間が開く。

「今から、お昼食べに行きませんか?」

時計は、ちょうど12時を指している。

「そうですね」

「じゃあ、行きましょう」

荷物を持って学食へと向かう。

そして僕は、あの2人の姿を発見してしまった。

彼女を見ると、恐らく彼女は彼らには気付いていない。

何気なく、僕はその2人の方に近づいていき、僕達の存在をアピールする。

そしてその距離が近くなり、彼女も彼らも、お互いに顔を見合わせた。

「レオくん、将生さん」

「玲奈さん」

「こんにちは、玲奈の伴奏をしてます岡田翼です」

誰に言われたわけでもなく、僕はわざと「玲奈」と言って自己紹介をした。

するとそれに面白いくらいに反応する2人に、つい笑いそうになってしまうがなんとか堪える。

「今度コンクール出ることになって、翼……が伴奏してくれるんです。普段から伴奏はしてくれるんですけど」

「そう、なんだ」

工藤レオは、分かり易いくらい彼女の「翼」にも反応する。

「だから、その……暫く2人とは会えないかも……」

「そう、それならコンクール終わったらどこか行こう」

「はいっ」

僕には見せないその心からの笑顔は、工藤レオを嫉妬させようとしているこの僕を、逆に嫉妬させる。

だから僕は、僕の方をもっと見てほしくて、彼女の手を強く握った。

「じゃあ、時間もないし行こうか」

「あ、うん」

そして、2人の前から強引に居なくなる。

堅苦しい敬語ももう、今で終わりだ。
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