アンティーク
「さっきは、強引に引っ張ってごめん」
学食のランチを食べながら、僕は数分前の行動を謝る。
「妬いてしまったんだ」
恋を自覚した今、この思いを心の中に秘めておく必要性なんてあるだろうか。
閉まっておく気持ち、伝わらない気持ちなんて、存在しないのと同じだ。
「妬く……?」
「玲奈が、彼と話すときは顔が緩んでいてあまりにも嬉しそうだから」
「そ、そんなに分かり易いですか?」
彼女は頬を赤く染め、僕から目を離すと斜め下を見て口元を緩ませる。
僕の前では、彼を想ってそんな表情を見せないで欲しい。
僕のことだけを見て欲しい。
分かるだろう、僕には君しかいないんだ。
「お願いだから、僕を見て欲しい。せめて今だけでも、僕だけを見て欲しい」
僕の言葉に、彼女はより一層頬を赤くし、今度は僕の目を見た。
でも僕の言葉が彼女の頬を赤くさせたんだと思うと、嬉しくなる。
反面、その目から、彼女が僕をどんな風に思っているのかが分からなくて、言葉を求めそうになる。
だけどきっと、彼女はそれを言わない。
「翼……くんは、どうして私の音を好きなんですか?」
彼女は人を呼び捨てにするのに慣れていないのであろうか、結局そんな風に僕を呼んだ。