Little Gang
その時、「お姉さん、俺と遊ばない?」と声をかけてくれた大学生らしき男。
私は振り返りざまに銃口を顔に向けて、人ひとり殺せるような殺気を放ち、鋭い目でじっと男子大生を見つめる。
男子大生は視線を血まみれになって倒れている男達に向けた。
“無差別殺人かと思ったが違うな。狙うのは男で女やガキには手を出さない”
男子大生の瞳は、冗談などという言葉で誤魔化せる色をしていなかった。
“男って生きもんが、そんなに許せないのか?”
その言葉を聞いて私は眉間に皺を寄せ、指を引き金に添える。
“私は・・・・兄さんを殺せない”
何があったって、私たちは家族なんだから。
煙草の跡をつけたのは兄さん自身なのに、傷を労るように優しく抱いてくれる。
悔しいけど憎めない。
兄さんの言うことをなんでも聞く私は、俗にいうブラコン。感情論が麻痺して頭がイカれたのかも。だとしたら重症だ。
“兄さんの愛は重たいし、束縛激しいし、シスコン卒業しろって思いますよ?”
私たちの両親は放任主義だった。
子どもに興味がないだけかもしれないけど、ただの育児放棄だ。
生むだけ生んで、身勝手な母親。
不倫ばっかしてるロクでなしの父親。
一緒に食卓を囲むこともない。
勉強を教えてくれることもない。
家族での会話は、“おはよう”と“おやすみ”の必要最低限な挨拶だけ。
そんな両親の元で育てられた私たち兄妹が、一番身近にいる異性に依存した結果。
一人の男と女として身体を重ねるような関係になっちゃうのは自然な流れだと思う。
“だけど私も兄さんが好きだから、たとえ傷ついても・・・向き合いたいと思ったんです”
愛されたい。
誰かに必要とされたい。
その相手が兄さんでもいいから。
許されない関係だとわかってる。
正しい兄妹のあり方じゃないことも・・・。
でも、あの快楽を味わってからは、もう理性を抑えることができなくなった。
自分から兄さんを求める夜も増え、次第にその“行為”に溺れて沈んでいく。
狂愛に身を焦がす自分は、嫌いじゃない。
兄さんが私に依存しているように、私も兄さんに依存している。
素晴らしい兄妹愛。
これを相思相愛といわずなんと言うのか。
“アンタ、兄離れしな。 そんなことやっても、心なんかちっとも満たされないよ”
あまりの綺麗事に、思わずフッと笑う。
“もう兄さんは私を殺そうとしない。恐怖に支配された監獄では、兄さんの決めることが全て”
ーーー俺を愛さないなら、殺す。
あの時の言葉が蘇って、全身の震えが止まらなくなった。
いつ背中に痛みが襲ってきて、全身に牙を立てられるかわからない。
逆らえば殺されるから、誰も何も言わない。
私は、心を閉ざしていった。
・・・キレイじゃ生きられないから。
“私は両親のような死に方はしたくない。 やっと外の世界に出られたんです。 兄妹の問題に部外者が干渉しないでください”
周囲は不気味な静けさで包まれていた。
永遠にも感じる、長い沈黙の間。
私は無表情のまま、銃口を男子大生に向け続けていた。
彼の返答次第では、私は迷うことなく男子大生を撃つだろう。
命乞いすれば一度は見逃す。
逆鱗に触れれば私に撃たれる。
でも男子大生は全く気にせず、口角を上げたまま軽い口調を発した。
“へえ、アンタってブラコンなんだね。 そういう子も嫌いじゃないよ”
ーーーその瞬間、私は男子大生の心臓を狙い、真っ直ぐ照準を合わせた。