Little Gang
『特別なもの、だよ』
「・・・・?」
『私が守るべきものはね。 脆くて、移り気で、とても厄介で・・・隠されたもの』
脳裏に散らつくのは、あの人の歪んだ笑顔。
声変わりした低い声。
狂気が孕んだ瞳。
愉悦に上がる口角。
まさに、悪代官ってやつだった。
『兄さん一人救えない私に、どこまでできるかわからないけどね』
家政婦としても、初心者ゆえに出来ることは限られている。
しかも、今は“Roselia”に追われている。
私の意思でアイジさんの息子たちと関わってしまっている以上、シュウさんたちにも不利益を与えるかもしれないのだ。
バンドマン、人気俳優、殺し屋、ダンサー、歌舞伎町NO.1ホスト、売れっ子モデル。
類まれなる才能や魅力を存分に活かして活躍する美形野獣だからこそ尚更。
せめて、足は引っ張りたくないのに・・・。
『・・・え?』
頭に、こつんと何かが当たった。
拳で小突かれたのだと気付いて、目を見張る。
ぱっと後ろを振り返り見上げると、シュウさんが柔らかい笑みを見せていた。
「挫折することはあっても、過去の成功や失敗に意味はないよ。 こんな状況に放り込まれても、お前はちゃんと踏み留まってる。 向き合うその一歩ずつが、勇敢の証だ。 あんま悲観すんなよ」
『シュウさん・・・』
その言葉は、じんわりと心に染みた。
励まして、くれたんだ。
「・・・俺にとっては、父さんを失くしたことが武器になった」
ああッ、苦しい。
呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだ。
麻痺してた心が涙を流してる。
でもなんだか不思議と怖くない。
私は捨て去ったはずの感情論に聞こえないような声で、“おかえり”と口を小さく動かした。