Little Gang
「ユリ、昼休みだよ〜」
「はい携帯没収ッ」
カノンとリサの声で我に返った。
もうお昼か〜。
作曲しようかな〜まだ食欲ないし・・・。
よしっと握り拳を作り譜面とにらめっこする私・・・。
「あっハルカッ」というリサの声で私は思わず机の下に譜面を隠した。
ハルカくんは緩く口角を上げ、「おはよう」と挨拶だけして自分の席に座る。
「ユリ、初めてだよね? 売れっ子モデルの西郷ハルカだよ」
「転入生? 僕は、西郷ハルカ よろしくね?」
『あーね? そういうフラグね』
うんうんと頷いた。
ハルちゃん・・・なんか他人行儀かも。
複雑な性格。
あっ、別に悪口言ってるんじゃないよ?
ハルちゃんはなんかモデル活動してるせいか人当たりはいいけど(私には素っ気ない)、どこか冷たい印象があった。
動物に例えるなら、人を化かす狐だ。
常に腹の探り合い。
ハルカくんはきっと用心深いんだよね。
「西郷、職員室くるよーに」
と教室のドアから出てきた古典の先生。
なんだかすごい神出鬼没で怖い。
ドッペルゲンガーだったりして?
五十嵐タツヤ。年は25。無造作にはねた焦げ茶の髪。カッコいい・・・。
「わかりました」
ピリッとした雰囲気をまとったまま、ハルカくんは教室を出ていった。
私と同じくカノンとリサも「どうかしたの」と言ってるから、2人も心当たりがなさそう。
ギャル充のリサから逃げ遅れた五十嵐先生も加えて4人でご飯を食べていた。
五十嵐先生は嫌いじゃない。
「えー。 ヒロ君がボーカルやってるバンド知らないとか、ありえないよ」
「ごめんなさい?」
と答える独身の五十嵐先生。
カノンとリサは五十嵐先生に、「あれは生で見ないとダメ」とか言っちゃってる。
「同じ空気を吸って、全部混ざり合って歌と一体になる感じ・・・たまんないよ」
うっとりしてるところや口ぶりから、カノンがバンドのファンなのは明らかだった。
ボーカルのヒロ君って・・・。
西郷ヒロトさんのこと、だよね。
『ねぇ、ヒロト先輩のライブのチケットって、今から手に入れられたりする?』
は・・・?って顔でカノンとリサが見てる。
なんで?
「無理に決まってるじゃん。 1分もしないうちに売り切れちゃったし」
リサが恐ろしいものでも見るみたいな目で断言してきた。
『ですよね』
「で・も。 カノンねー、実はチケット何枚か持ってるんだー♪」
『買い取らせてッ』
ヒロトさんの歌声聴いてみたいし、昔から生ライブには憧れてたんだよね。
「んー・・・まあ、ユリならヒロ君の魅力が理解できるだろうし・・・いーよ」
カノンは本当に渋々といった表情。
・・・乙女心は複雑らしい。
「チケットは家だからー・・・バイト終わりに会って渡せばいいかな」
「ユリ、何時ならこれる?」
『そうだなぁ・・・。 19時くらいなら行けると思うよ』
「うん、じゃあ19時に駅前ね」
『オケ』
了解ッ。
ルナさんのことは気になるけど・・・あんま口出ししたら逆効果っポイし。
押してダメなら引いてみろ・・・回りくどい駆け引きなんて私らしくもない。