Little Gang
それから私は、時々アイジさんに会いたくて兄さんには内緒で会うようになった。
1ヶ月に2回のペースでアイジさんは私が住んでいる遠いこの町に来てくれて、しばらく歌いながらセッションをする。
ずっと大学生だと思っていた私は、アイジさんが27歳・・・・既婚者で妻が3人、息子が6人いると知ったときは目から鱗が落ちた。
アイジさんは、日本の音楽出版社、芸能事務所の社長さんらしく、私には才能があるから高校生になったら本格的にレッスンしようとかなり意気込んでいたのを今でも鮮明に覚えてる。
・・・・・それが、何年も続いた。
アイジさんが仕事で来れない日は、綺麗で優しい奥さん“たち”が私と遊んでくれたりもした。
数年前、アイジさんのためなら嫁同士の争いにだって勝ってみせますと告げた時、アイジさんは「余命1ヶ月の男だからやめときな」と、淋しそうに笑った。
駄々を捏ねる子どものように、私はわんわんと泣いた。
『息子たちを、頼むな』
この時のアイジさんは、父親の顔をしていた。
そして中学3年となり、高校を選ぶとき、迷わず息子さんたちが通っている“紫苑(しおん)学園”を選んだ。
東京に上京することには賛成してくれた兄さんだけど、一人暮らしをしたいとお願いしたら猛反対。
それでも諦められなくて、何度も何度も頭を下げて懇願する。
兄さんも頑固だから首を縦には振らず、相も変わらず、甘ったるい嬌声で鳴く日常が続く。
とても、苦しかった。
兄さんの愛情を受け止めきれない。
もうこの“行為”に快楽は感じなかった。
冷静な思考でアイジさんのことを考え、大人と子どもの境界線に涙するだけ。
なのに・・・不可抗力とはいえ、アイジさんとキスしてしまった・・・。
魔が差したのか、そういう空気だったのか、たった一夜だけ男と女の関係になった。
私はアイジさんに、思い出と同時にいくつもの大切なものを貰ったと思う。
決して揺るぐことのない彼への“一途な愛”。
アイジさんこそが、唯一の初恋だった・・・。