Little Gang
指定された時間まで、あと12時間もある。
悩む時間は充分すぎるほど。
余計なことをすれば、今すぐにでもみんなの命が奪われるかもしれない。
どう動くのが正解なのか、思考をフル回転させる。
リツくんに相談して・・・・ううん、上に立つ者が弱さを見せるのは・・・。
どちらにしろ私がアジトに行かなかったらみんなは殺される。
でも、テロ組織の本拠地に一人で行って無事で済むとは到底思えない。
殺されるだけならマシだけど、利用されて蜃鬼楼の弱味になる可能性だってある。
・・・ダメだ。
突破口が見当たらない。
焦りながらトークアプリを開き、相談できる相手はいないか探そうとして・・・。
『あ、』
少し前に、ユウタさんから着信があったことに気づいた。
ぎゅっと携帯を握り締めて、ユウタさんに電話をかける。
「ユリさん? はあ・・・よかった、繋がって」
『ユウタさん・・・』
「寝てるの起こしてたらごめん。 ユリさんの分のお弁当も作り置きしてるから温めて食べてね」
『ありがと。 ユウタさんも仕事で忙しいのにごめんなさい』
電話越しにユウタさんの声を聞いて、私の心は自然と決まっていた。
みんなを失いたくない。
そのために自分を犠牲にするなんて、蜃鬼楼の仲間がなにより哀しむことだと分かってる。
正義は悪に屈しないと願ったのは私なのに・・・。
『ユウタママと結婚する子は幸せものだね』
冷静に、いつも通りに。
私が口に出す言葉は、携帯に内蔵された盗聴器を通して兄さんが聞いている。
つまりこれは、逆らうつもりがないという意思表示にもなるはずだ。
「・・・晩御飯、何がいい? 食欲ある?」
『え?』
横目でちらりと時計を見やる。
午前11時半。
『キッチンは女性以外立ち入り禁止です』
「家政婦は年中無休で働かなきゃダメなの?」
『ううん、そういうわけじゃ・・・』
「料理の試作品、手伝ってよ? いつもお世話になってるんだからこれくらいさせて」
『・・・・っ!』
「男性と女性では好みの味覚が違うし」
悟られないようにしなきゃいけないけど、ここで断る方が怪しまれる。
なにより・・・。
意義のある死を迎えることができれば、それはとても幸せなことだと思っていた。
だからこそ、投げやりな気持ちではなく生きることに本気で向き合ってきたつもりだ。
なのに、あの人が私の価値を作った。
ーーー生きる理由を。
『じゃあ、今回だけは試作させてもらおうかな。 ユウタママの料理は今後のレシピの参考になるからさ』
「うん。 じゃあ、お大事に」
ブチッ
通話の切れた画面を見つめる。
『六花をナメるなよ?』
ぽつりと呟いた声は、穏やかな寝息が支配する部屋に掻き消されたけど・・・。
携帯の向こうで、誰かが笑っているような気が、した。