Little Gang
時計の針は、お昼頃を回っていた。
「留守番、お願いしますね。 学校に行くけど、何かあったらすぐ連絡してください」
『うん』
玄関を出ようとするルナさんを見送ろうとして私は必死で言葉を飲み込んだ。
「行ってきます」
『ルナ、さん』
「・・・はい?」
『この地区も何かと物騒だし、寄り道しないで帰ってね』
「ふふ、心配性ですねぇ。 でも、ありがとうございますぅ。 じゃあ、また」
さようなら。
『うん。 いってらしゃい』
ごめんなさい。
ルナさんが出て行ったあとも、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
こんな形で、お別れしたくなった。
もし私が勝手に消えたと知ったら、みんなはまた他人からの見返りもない優しさを拒絶してしまうだろうか。
みんなの心を傷つけてしまう。
Roseliaや兄への恐怖よりも、なによりも。
それが苦しくて、嗚咽を噛み殺した。
『ヒロトさんのライブ見に行く?』
深呼吸して心を落ち着けてから、私はメッセージを送った。
そして、すぐ私のもとにメールが届く。
『チケット取れなかった((>ω<。))』
「っ・・・」
届いたメールの文面に、思わず吹き出しそうになってしまう。
やっぱり、倍率高いか。
『ユウタさんに朗報です。 友達からチケット1枚譲ってもらったの』
『その手があったか。 で、どういうこと?』
『観客席よりも断然に眺めのいい特等席が手に入ったんだ』
『特等席?』
『そう』
『俺の分まで楽しんで来てね』
『ユウタさん、私は・・・。 見られるのも仕事の内なんですよねぇ』
『ユリさん?』
『ユウタさんに見て欲しいの』
『どうしたの、突然』
『チケット・・・譲るよ。 ユウタさんの好きにしてください。 今日は出血大サービスです』
『ユリさんってずるいよね。 そんな風に言われたら断れない』
『だって私、君に女子力で負けてるもん』
『俺、そんな女子力あるかな?』
『家事全般はね』
『兄貴は放任主義だから、家のことは俺に任せっきりなんだよ』
『よっ、ユウタママ』
『コラ(*`Д´)ノ!!!』
『褒めてるのに』
そのメールを最後に携帯をしまうと、私は上を向いて吐息をもらす。
心がフワフワとしていて、春の木漏れ日のなかにいるような、そんな心地だった。
口角も、緩みっぱなしだ。
でも、時計を見たら現実を突きつけられた。
ーーーータイムリミットまで、あと・・・。