Little Gang


その光景を、夢だと思いたかった。

アイジさんに別れを告げて踵を返した瞬間、公園の周囲からいくつもの銃弾が放たれた。

ーーー公園に配置されていた狙撃手。

私がそれに気づくのと、物陰から伸びた魔の手に羽交い締めにされたのはほぼ同時だった。

“ユリは俺だけのものなのに”

耳障りで大嫌いな、声変わりした低い声。

兄さんが歪んだ笑みを浮かべる。

それと同時に、視界の端で、アイジさんの身体も傾いだ。

“アイジさん!!”

悲鳴のような声が、自分の唇から零れる。

いち早く状況を判断できてしまう自分の性が恨めしかった。

アイジさんは、助からない。

それを、すぐに脳が理解してしまった。

“・・・アイジ、さん・・・?”

何度名前を呼びかけても、応えてくれることはない。

当たり前だ、だってアイジさんは・・・。

もう、ここにはいないのだから。

“ふ・・・、は、はは・・・”

乾いた笑いが勝手に口から零れて、無意識のうちに銃を抜いていた。

【兄離れする】

【もうケンカはしない】

【死ぬまでにやりたいことを叶えよう】

そんな約束も誓いも、なにもかもがくだらない。

“バカだな、なんで私は・・・”

自分が兄さんから逃げられるなんて、傲慢なことを考えたんだ。

私は、いつも誰かに生かされる。

こんな奴に、生きてる資格なんてない。

“人形のまま、いればよかったのに”

ーーーそうすれば楽になれる。

そう思うのに、なぜか脳裏に過ぎるのはいつかアイジさんが言ってくれた言葉で。

「息子たちに寂しい思いをさせないように、後腐れのない女と家庭を築いた。
いつも仕事が忙しいのを言い訳に、家事全般は妻に任せっきりで、息子たちと一緒に過ごす時間も自然と短くなって・・・父親らしいことを何一つしてやれなかったけどな。
俺は・・・歪んでしまった息子たちに、愛情を芽生えさせてやりたい」

私は“違うよ”と否定した。

思えば仮面夫婦で冷めきっている両親。

どんなに夜遊びをしても怒らない、誕生日にすら帰ってこない私の両親とは違う。

愛時さんは息子さんたちのことを考えなかったときなんて片時もなかった。

それから、誕生日にはケーキを予約して贈り物をしていると・・・。

アイジさん、父親らしいことやってますよ?

泣きそうになるのを頑張って我慢した。

死ぬ方がずっと楽だ。

このまま生きる方が辛い。

それでも、アイジさんの意志を汚したくないと思う自分がいた。

「俺が死んだら、息子たちを頼むな。
昔のアンタと同じ目をしてるから、きっと哀しみを理解できるはずだよ」

ーーーだから。

“ごめんね、兄さん。 やっぱり私、紫苑学園に行きたい・・・!”

私にとっての優先順位は、昔から変わらない。

・・・本来の役割りを果たす。

私は銃を握り直した。

それが、私の存在証明なんだから。

全神経を研ぎ澄ませて引き金を引いた。

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