Little Gang
辿り着いたのは・・・。


「・・・・変わらないな」


何年も放置されていた地下トンネルだ。

工事現場から入れるものの、なんのために掘られたのかは不明。

でも・・・。

今のところセキュリティらしきものはない。


「暗いから、足元気をつけてよ」


と、隣でジローは素っ気なく言った。


『・・・うん、ありがとう』


呟くと、ジローは一瞬だけ驚いたように立ち止まって、また慎重に足を進めた。

物音ひとつしない中、私とジローの靴音だけが響く。


「僕は・・・君を守れない」


ふと、ジローがぽつりと呟いた。

突然どうしたのかと驚いたけど、血が滲むほどに強く握られた拳を見て、理解する。

きっとジローにも守りたいものがあって、自分の胸に燻る黒い感情と葛藤しているのだろう。


「どこまでが嘘? それとも、全て真実なわけ?」


『え・・・?』


「もし、大事な人が犯罪者だったら、染谷さんはどうする?」


不気味な狐のお面の下で隠してた素顔を晒したジローは今まで見たことないくらい哀しい瞳をして笑った。

混乱する。 立っていられない。

視界がぐらりと傾いだ。


『あ・・・』


「よっ・・・と」



ーーー背中が、温かい。


「どうして君なんだろ」


耳元で、囁きが聞こえた。


優しいーーー・・・不安を取り除いてくれるような、穏やかで優しい声だ。

でも、それは私の心まで届かない。


「染谷さんじゃなかったら、僕は復讐のことだけ考えられたのに」


『ジロー・・・』


「・・・・何?」


『大事な人が犯罪者だったら、私はどうするって聞いたよね・・・?』


「・・・・うん」


滑稽すぎて笑える。

・・・バカだよね。

真実は、墓場まで持っていこうと思ってた。

私の内情を知れば、対等に扱ってもらえない。

兄さんやRoseliaとは関係なく、私自身を見てくれる人はいないだろう。

ま・・・そんなの言い訳、かな・・・。

本当は、嫌われるのが怖い。

ーーー罪の意識に、苛まれるから。

でも・・・。

きっとこれは、ジロー・・・ハルカくんのことだけでは留まらない。

手を血に染めて、幸せを追うことはできない。

願わなきゃ傷つかなかった。

望まなかったら失望もしなかった。

歩くほどに靴底が汚れていくように、私たちの心も磨り減って影ってしまう。

地獄の先に待っているのは破滅の二文字だ。

・・・選ぶのは、自分。

その時に立ち向かうか、それとも逃げるか。

過去の過ちを振り返って、人生の分岐点に経つと必ず思い出す。

私が“諦められない理由”を・・・。


“お前には変わる未来を見届けてほしい”


救ったはずが救われたっけ・・・。


“僕を死なせたくなかったら、絶対に・・・僕から逃げないでください”


握ったつもりが握られた手・・・。

私のやろうとしてることが本当に正しいかは、わからない。

蜃鬼楼が理想とする世界は、突きつめて考えると人間の虐殺だ。

こんな苦しみから解放されたい。

・・・哀しみを消し去りたいって。

ーーなら、今の私は、どちらを選ぶ?
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