Little Gang
「黒猫さんは学生?」
『高1。 家庭の事情で中退したけど』
会話に花を咲かせる黒猫とユウタ。
まあ、たまには悪くないかもな。
黒猫の鈴の音のようなコロコロした声は不思議と心地よく鼓膜を揺らす。
あー、癒される。
にしても・・・あの癖・・・。
ユウタに犯人を倒した出来事を褒められて気恥しさを誤魔化す時にあの髪を耳にかける仕草は、西郷家の黒猫(ユリ)も無意識のうちにやっていた。
黒猫の面影にユリが重なる。
今時の女には珍しい傷だらけな荒れた指。
自然と人の懐に入ってしまう独特な空気。
ドクン・・・。
何気ない仕草や言動に動悸が逸る。
不用意に絡んだ視線・・・。
俺は抗えない引力に吸い込まれるがまま、黒猫の壊れそうなほど細い身体を引き寄せた。
『え・・・!?』
黒猫の瞳は動揺に揺れ、華奢な肩は見知らぬ男に触れられた恐怖に強張っていく。
俺の頭の中では警報が鳴ってる。
ダメだ。
やめろ。
一時の感情に流されるな。
頼むからッ、冷静になれ!
そんな願いも虚しく、衝動に身を委ねて・・・。
唇がそっと重なった・・・。
「ふっ・・・」
俺は僅かに開いた唇の隙間から吐息を漏らす。
黒猫は顔を紅潮させ目を潤ませる。
ーーーーその顔逆効果。
あまりの予想外な一瞬の流れに、黒猫の頭はついていけない様子だ。
『なっ、「何やってんだよ兄貴ッ!!」
・・・・!? ユウタがキレた。
これは、あとで自己嫌悪になるぞ。
物凄い勢いでユウタが、俺の胸ぐらを掴んで締め上げて来て、絶対零度の凍える眼差しで睨みつけられた。
『ユウタママ、そんな顔もできるんだ』
「ユウタママ?」
どうやら初対面の黒猫からユウタママと呼ばれることを不思議に思ったらしい。
「クク・・・なあ、今ここであんたが俺にキスしたら、代わりに騙されてやってもいい」
口角を上げて見下ろし、挑発的な態度で返してやった。
『・・・っ!!』
あ、顔引きつってる。 理解したか。
「慣れない変装までして、俺たちに会いたかったんだろ? ・・・なぁ、ユリ」
『え、別に、会いたくなかったよ』
「あっそう・・・ま、逃げたら“ここ”でキスの先を腰が碎けるまでするけどな」
『最低・・・って、そーじゃなくてっ!!! あー、やっぱもういいや。 降参』
ユリはわしゃわしゃと自分の髪を掻いて、参りましたと両手を上げたから、ユウタは気が抜けたのか服から手を離した。
「やあやあ爆走兄弟くん、元気かね?」
「う、うん。 ユリさんも元気そうだね」
ユウタは表情を和らげて、3ヶ月ぶりの再会に喜びを噛み締めていた。
「ユリさんは落ち着いた色合いの服を着ることが多いから、そういう派手な服は新鮮だね」
『私は兄さんの人形なの。 趣味悪いよね』
と遠い目になるユリ。
『家具にしろ家電にしろ、とにかく自分の使うものには拘りが強いから、何でも自分好みにしたがる性癖があるってわけ』
「は?」
ユウタらしくない間抜けな声・・・。
『おまけに独占欲の塊だから、他の男の目に入らないように籠へ閉じ込めようとする。 生き地獄とはまさにこのことだよ』