Little Gang
『未来はよくなるよ』
「えっ?」
『永遠に雨が降ることなんかないでしょ?』
「ハァ・・・」
「兄貴・・・なんか・・・不思議な子だね、ユリさん」
ユウタ、なんか疲れてる?
「ああ・・・」
それから、ぽつぽつと雑談をしながら俺たちはユリと並んで歩いた。
大通りに出ると、ユリを見る男の目が凄かった。
確かに中性的な綺麗な顔立ちで可愛いし、ユリの纏う空気は聡明だ。おまけにRoseliaの特攻隊長だし、人を惹きつける要素は十分ある。
逆に俺たちは羨望の目で見られ、至極の優越感に酔いしれてたけど。
大通りを出てからは、少し歩いて、着いたところは大きい錆びれた工事現場。
地下トンネルを抜けた先が、Roseliaの隠れ蓑であるアジトらしい。
ユリは慣れている様子で、立ち入り禁止のテープを潜って中に入った。
俺たちも後を追いかけようとしたが、無言の圧力で“入るな”と制されてしまった。
ユリが去っていくのを見送ろうとして彼女がじっと俺たちを見ているのに気づく。
「どうしたの?」
『・・・ね。 私とみんなだけ生き残れば他のものなんてどうなったって構わない、と言える?』
「え・・・あ、多分。そうかな」
『私の知るみんななら、染谷ユリを殺せない。本当に殺せるのかなって思ってた』
過去形・・・?
無邪気で嬉しそうな笑みを見る限り、その【染谷ユリ】とやらは、哀しみを終わらせてくれる人を心から欲しているのだろう。
こちらの心まで温かくなるような鮮やかな笑顔に見惚れてしまった。
「俺たちが最後の、アンタの生きる意味か?」
『うん、認めるのは悔しいけどね。 みんなは、私を殺して先に進んで。 私の代わりに、正義の旗を掲げる怪物になってほしいんだ』
「怪物に・・・?」
『ま、逃げ出すことは責めないよ。おやすみ。ヒロトさん 、ユウタママ』
言葉の意味を問う前に、ユリが踵を返して去ってしまう。
でも、責任の放棄は許さない人。
厳しさと優しさの両面を持っている人。
「帰ろうか」
・・・やっぱり、謎だらけの女だな。
俺も・・・俺の大事なものを守れるように面倒くさがらないで本気を出すか。
ユリへの認識を改めると同時に、西郷家の長男としての自分の立場を、思い知らされた気がした。