Little Gang
「・・・でも、姉さんは患者より保身を守った自分の選択に後悔してたよ」
ハルカくんは少しだけ目尻を緩ませた。
「当時付き合ってた五十嵐もさ? 自首するのを誰よりも望んでた。いい歳した大人が泣くなよって思ったけど姉さんが誇らしかったよ」
そう言って、笑ってみせたハルカくん。
だけど私の目には、とても切ない顔で苦しんでるような表情にしか見えなかった。
甘いミルクの香りが漂う中、私とハルカくんは向かい合ったまましばらく動けずにいた。
「姉さん言ってたよ。 罪を償って人生やり直すって僕に約束してくれた」
『・・・それなら、お姉さんは刑務所に?』
「あー、1年の禁固刑だよ。 ・・・うん、自首したからってのもあるけど、懲役刑より刑罰としては軽いかもね」
ハルカくんは私から目線を外し、冷めきった紅茶に口をつけて、息を“はーっ”と吐いた。
「あと2ヶ月の辛抱で釈放される。晴れて自由の身になれたはずの姉さんは・・・誹謗中傷の手紙に心を病んで首を吊って自殺しちゃった」
ハルカくんは声を震わせ、唇を噛み締める。
『ハルカくん・・・』
「五十嵐から、聞いたんだ。 ・・・姉さんはこの青い栞を死んでも離さなかったって」
『特別なものなんだね』
「患者さんからもらったもので、嫁入り道具のように大事にしてたらしい」
『素敵なお姉さんじゃない』
「うん。 自慢の姉さんだったよ。 アメとムチっていうの? あれがうまいんだよね。僕のいいところはすごく褒めてくれてさ。 悪いところは・・・頭ごなしに怒るんじゃなくて、それを長所に変えてみせなさいって助言してくれた」
それなら、ちょっとわかる気がする。
アイジさんも・・・そういう人だったから。