ウェディングベル
船の完成
船が完成したとき、私は17歳で季節は冬だった。
古屋千秋は31歳で、姉は24歳だった。
私はあれから船の手伝いはしないものの、すぐに二人に飲み物と食事を届ける役割を担った。
それは、作業が段々と忙しくなり、飲み物も食事も作れなくなった姉が声を掛けてくれたから二人の中へと入ることが出来たのだ。
その言葉さえ無ければ私は今頃何の手伝いもしないまま完成の日を迎えて然して感動もせずにその船を眺めていたことだろう。
日に日に船を手伝う人は増えて、最後には街から十数人の人たちが協力し合って船の完成へと漕ぎ着けたのだ。
朝から晩まで男の声が海岸に響き、金槌などの作業音が響いた。
私は、もう仕事が力仕事に変わってしまい、手伝えなくなった姉と一緒にご飯を運ぶ係りとなった。
古屋千秋は話しかけても楽しそうではあるが真剣な表情で、あまり言葉を返してくれなかった。
それでも私は、ずっと古屋千秋を見ていた。心の中で「頑張れ」「もうすぐだよ」と応援しながら。
そして私は、私の隣に立って、船の完成を見守っている姉の視線の先が同じ事に気付いて、心臓が妙に脈打った。
「玲!」
遠くから呼ぶ声がする。
それは紛れも無い古屋千秋の声で、その声はまるで神からの思し召しかのように、姉の表情はパッと明るくなってその綺麗な顔に笑顔を浮かべて、古屋千秋へと走り寄って行った。
少しの会話をした後に千秋の隣へ腰を下ろして、何か作業を手伝っている。
私は此処最近ずっと荒れ続けている唇に、また容赦なく歯を立てた。
子どもだからと先に家に帰され、その数時間後に仲良く二人で帰宅してくる二人を見て、無意識に付いた唇の荒れ。