ウェディングベル
一時的逃避行
「ちー兄、出かけよう」
「何処へ?」
「色んなトコ」
そういって私が強引に古屋千秋を誘い出したのは、船が完成して、そう日の浅くないある休日のことだった。
船が完成したら、今度は『乗る』へと移るのは火を見るより明らかなことだ。
私は漸く来たこの日に、胸を弾ませ、そして同時に不安でもあった。
古屋千秋が約束を忘れているのではないだろうか、と。
それを確かめるために、私は古屋千秋を外に連れ出した。
あの小屋では、柳玲が現れることも少なくなくなってきたからだ。
私の強引な誘いに渋々付いてきた古屋千秋は私の隣を私と同じ歩幅で歩いてくれた。
「出かけるの久しぶりだね」
「あぁ。あ、ごめんな。船作ってるとき、誘ってくれたのに断ってばっかで」
「ううん、いいの。船完成してよかったね」
外へ出て10分もしないうちに船の話になって、私はわざと話を変えようと頭の中の引き出しから会話のレパートリーをきずり出した。
いざ、確信へと進むチャンスが訪れた時、私はまだ勇気がもてなかった。
何処かで古屋千秋を信用している自分と、古屋千秋と仲よさげに話しをしている柳玲の姿がだぶって、どうしても言葉が喉の奥で、大きすぎて、重たすぎて、吐き出すことが出来ないのだ。
当ても無く歩いていると、目の前に神社が現れた。
去年、初詣に二人で出かけた小さな神社だ。
私は駆け出して石段を駆け上がると鳥居へと辿り着くと何度かペチペチとその古ぼけた鳥居を叩いてみせる。