ウェディングベル
「昔からお前はシーソーに誘うけど、満足に出来なかったよな」
いいながら、古屋千秋は脚をバネに使って自分を浮き上げた。同時にあたしの足は地面を踏みしめることが出来た。
今度は逆に私が地面を蹴り上げる。古屋千秋の脚が、地面に付く。
ギィッ…トン…ギィッ……トン、…
歪な音が響いて、遊具はいつも乗せるような子どもとは違う重さに、少し不穏な音を立てた。
「昔はこんな音しなかったよねぇ?」
「あぁ、……お前太ったか?」
「ちょっと私の所為!?ちー兄の中年太りじゃないの?」
「中年太りなんてしてねぇよ俺は」
確かに古屋千秋の身体には無駄な肉などは無く、逆に三十代とは言えないほど、細見を保っていたし、身長も保っていた。
このシーソーに乗っていた時と違う所があるとすれば、少し見え始めた白髪と、少し増えた皺くらいだろう。
毎日見ている所為でどこがどう、と言う風には断言できないが、あの頃とは少しずつ違って行ってしまっていることをおぼろげながら私は思っていた。
「お前さ、こう思うと大きくなったよな。いっつも見てるからそんなに気にしなかったけど」
「えー、それ今更だよ」
言いながら、自分と同じ事を思ってくれていた事に私は涙が出そうになった。
ただ、1mほど空へ近づいては、地面に近づく。
そんな繰り返しだけしか出来ないこの遊具で過ごすこの時が、幸せすぎて、嬉しくて、私は暫くシーソーを続けた。