ウェディングベル
「ちー兄、…約束覚えてる?」
「約束?」
私は吐きそうで、目の前がクラクラとして気持ち悪くなった。
果てしない緊張。
心臓はもうドクドクとなっているのかさえわからないほど、耳がどんどん遠くへと掻き消えていったような、そんな、錯覚に見舞われた。
一つ息を吸って、吐き出す。
その行為がとても怖い。
「船が出来たら私も連れてってくれる、約束」
「あぁ、それな」
バツの悪そうな顔を、古屋千秋は隠せずに、私はその表情で全てを悟ることが出来た。
何も言わない私をいぶかしんだのか、それとも、言葉が漸く見つかったのか、古屋千秋は暫くの間を置いて、言った。
「来週から、船に乗って旅をして来ようとは思ってる。…でも、お前は学校があるから、さ」
「…うん」
「学校が終わったら連れてってやるよ、日本の離島くらいならいけるだろ」
「外国じゃないの?」
「外国は…ほら、お前まだ未成年だし、親御さん心配するだろ」
しないよしない、しなくていい。
韓国でもマレーシアでもインドでもイタリアでも、連れて行って。
そんな声が聞こえたのか、聞こえていなかったのかはわからないが、古屋千秋は、残酷な言葉を吐いた。
「玲は気にしなくていいからよかったんだけど」