ウェディングベル
私が16歳で、古屋千秋は30歳。
普段は漁の手伝いをしていて、その合間に船の設計をしている。
自分で設計した船を自分で作って、海に出るのが古屋千秋の夢だった。
その夢は私が物心つく頃から何度も聞いていた長い長い夢で、古屋千秋は私がすくすくと成長する間、設計の勉強をし、お金を貯め、何度も船を作っては成功と失敗をくり返し、海の天気の見方を覚え、波の声の聞き方を知り、魚の種類を覚え、さばき方を身につけていった。辿り着いた先で会話が出来るようにいくつもの国の言葉も流暢に。
私はよく海に連れて行ってもらっては、釣をして、その場で捌いてもらったり、魚の種類や特徴を教えてもらった。
着実に自分の夢を追いかけていた古屋千秋の背中がまぶしくて、私は設計の邪魔にならないように、小屋の隅っこで圧し掛かる夢や重圧やプライドに骨を研ぎ澄まされていく古屋千秋の背中を見つめていた。
研ぎ澄ましていくのが周りの目ならば、この骨を柔らかい曲線を帯びた元の骨に戻すのはこの私の役目だと信じて疑いはしなかった。
途中で眠ってしまえば毛布を、寒い夜にはホットココアを、暑い日には扇風機を、そして、皺の寄った眉間には私の笑顔を、それぞれ与え続けた。