ウェディングベル
古屋千秋
古屋千秋を、一人の男として意識し始めたのは中学3年生生の頃。それから密かに微かに、思い続けている。
元々同学年の男は野蛮で、頭が悪くて嫌いだったし、近くに、古屋千秋の存在があった私には古屋千秋以外の男を愛することなどできないでいた。
優しくて、落ち着いていて、だけど夢を捨てたわけじゃない、何処か少し子どものようなあどけなさもある、理想の人だった。
私はたまに千秋と恋の話や恋人の話などをすることがあったが、私はいつも曖昧に言葉を返し、逆に古屋千秋の返答を普段通りを装って、入念にチェックを入れていた。
何度か物好きなクラスの男からの誘いはあったが、すべて断った。
そのうち、古屋千秋が何故私を誘ってはくれないのだろう、と思うようになった。
私は設計図と睨めっこを続ける古屋千秋のその背中を眺めながらそんな同じ問いを何度も気付かれないように本人にぶつけた。
あの尖った骨が見える、背中へ。
「美里暇じゃない?」
「んーん、そんなことないけど」
「よく飽きないなぁ」
「飽きないよ。ちー兄こそ、飽きない?」
「俺は飽きないよ、好きだから」
小さく胸が、先ほどとずれた心音を放つ。
あぁ、この「好きだ」と言う一言が私に向かって言われた言葉だったらどれ程嬉しいことだろうか。
その甘い想像と、現実に打ちのめされた私の胸は、一瞬高鳴って、そして絶望の鐘を鳴らしてキュウキュウとその奥の心臓を締め付けた。