何もかも「君」だから...
“あいつ”がこのクラブに入ってから早1ヶ月。
今日は今年初めての夏休み練が始まった。
「ねぇー結莉ーなんでさー辛い思いしながらさー暑いところでさーやらなきゃいけないのかねー?」
「中学校に行っても辛い思いをしないようにってことじゃない?」
「...あぁなるほどね...」
こんなに暑い日でも結莉はいつだって冷静。
いやぁさすが。
今日も一人休み時間になると空をぼんやりと見つめながら目映い光を浴びる“あいつ”。
何が楽しいんだか。
そうだ...!話しかけてみよ。
「ちょっと話してくる!」
「...えぇ?あぁ行ってらっしゃい?」
どこか不思議そうに返事をする万結はさておき
“あいつ”に向かって一歩踏み出した。
...よし。あとちょっと。走っちゃえ!
たったったったったと響く足音。
「...っうわぁぁ?!」
うーわまじか。
“あいつ”の1mほど手前には派手に膝を擦りむいた私がいる。
「えぇっと...大丈夫?」
そこには微かに苦笑いを浮かべる“あいつ”と差しのべられた手があった。
「...あ、ありがとう」
まってまってこいつの名前なんだっけ。
まぁここまで来たなら話さなきゃ...

「...えーっと...あっ!確か石田って言うんだよね?」
「...僕、石川だけど?」
「...え?」
「...え?」
二人でえ?って言い合ってもさ...
「え?まってまって。じゃあ聞きます。」
「はい。どうぞ?」
「あなたの名前は?」
「石川優斗です。」
...あ。私が間違ってますね。これ完全に。
「名前間違えてた...ほんとごめん!」
「いいよいいよ。それよりさっき大丈夫だった?w」
あぁ...さっき確か転んだんだよね。
「それなら全然大丈夫。」
「じゃあ練習始めるよー!」
「あっ。じゃあいくねー!」
「そうだね。」
このとき私は何を思っていたんでしょう。




これが恋になるなんて知らずに。
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