続・政略結婚は純愛のように
「…え?」

かすれた声で由梨は答える。
そういえば今日一日ずっと身体が重い。そしてやたらと寒い。
 季節が進んだのかと思っていたけれどどうやらそれだけではないらしい。
 隆之は素早く身を起こすと由梨を抱きあげて布団をめくり、再び横たえてから由梨に被せる。
そして黒い髪をくしゃくしゃと掻いた。

「…待ってろ。」

 隆之は、暖房をつけてから一旦部屋を出て行き、しばらくして体温計と由梨の着替えを持って戻ってきた。
 隆之が言ったとおり熱は高かった。
 言われるままにパジャマに着替えて再びベッドに潜り込んだ由梨に隆之は何か食べるかと尋ねる。
 食欲はないと言うと頷いてまた部屋を出ていった。
 今日一日、嫌なことばかり考えてしまったのは体調が良くなかったからなのかもしれない。
 由梨には昔からこういう癖があった。
 今井の家にいた頃、どんなに嫌なことを言われても普段だったら言い返すこともせず黙っていることができた。
 けれど体調が悪い時は思わず反抗してしまい後でひどく叱られるのだ。
 今日もいいがかりみたいな苛立ちを隆之にぶつけてしまった。
 彼は呆れて出ていってしまったのだろう。
 加賀家の屋敷は広く客間もたくさんあるから、今日はそのどこかで寝るつもりのかもしれない。
 そんなことを思うと由梨の瞳からまた涙が溢れた。
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