続・政略結婚は純愛のように
「…もう泣くな。」

いつのまにか隆之が戻ってきていた。
 サイドテーブルにリンゴのお皿が乗っている。
 由梨はほぅっと熱い息を吐いた。
 リンゴを切りに行っていたのか。

「リンゴなら食べられるだろう。少しでいいから何か食べて薬を飲め。」

リンゴはキチンと切りそろえられて行儀よく並んでいる。
 由梨はいつかの夜に隆之がホットミルクを作ってくれたことを思い出した。
 住み込みのお手伝いさんがいることもあって隆之は普段はキッチンに立たない。
 けれど、いざとなれば大抵のことはそつなくこなせるようだ。
 体を起こしてリンゴをかじると爽やかな甘みが口に広がった。
 これなら食べられそうだ。

「…酷いことをしてすまなかった。」

リンゴを口にした由梨を見て隆之がいくぶん安心したように由梨の頭を撫でた。

「隆之さん…私…。私こそ…。」

言いかける由梨を隆之が首を振って止める。

「今日はもうゆっくり眠るんだ。俺は隣のリビングにいるから。呼んでくれたらすぐにくるよ。」

 由梨は目をあげた。

「行っちゃうの?…私が悪い子だから?」

「由梨…?」
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