続・政略結婚は純愛のように
 ぼんやりと霞む意識は遠い幼い頃へ由梨を誘う。
 体調が悪くなるとお手伝いさんが丁重に看病してくれたけれど、ただそれだけで誰も由梨には付き添ってはくれなかった。
 まるで癇癪を起こした罰だとでもいうように放って置かれたのだ。

「…俺は…さっきあんなことを由梨にしてしまったから…。側にいたら嫌ろう?」

由梨は首を振る。

「やだぁ…。行かないで。良い子にしてるから…。」

 涙がぽろぽろと溢れた。
 さっきあんな酷い言葉を吐いたくせにという考えは浮かばない。

「由梨…。由梨、わかった。わかったから。…泣くと熱が上がるぞ、側にいるから…ゆっくりお休み。」

隆之の穏やかな声は不思議な呪文のように由梨を眠りの世界へ導く。
 寂しい、一人にしないでと泣く由梨の心を鎮めるかのように、隆之の大きな手がさらさらと由梨の髪の毛を撫で付ける。
 その感覚に少し安心して由梨は眠りについた。
< 103 / 182 >

この作品をシェア

pagetop