続・政略結婚は純愛のように
 由梨と隆之にとって初めての諍いは、結局うやむやのままになってしまった。
 次の日もその次の日も由梨の熱が下がらずベッドから出られなかったからだ。
 隆之が呼んだ加賀家の医者は、ちょっとした風邪だから数日安静にしているようにと言った。
 隆之は初めの夜に由梨が懇願したとおり、ずっと側にいて看病をしてくれた。
 由梨の記憶にある限り風邪を引いた時にこんなに安心して過ごせたことはなかった。
 うつらうつらと夢と現を行き来している意識の中で、そのどちらにも隆之がいて寂しくはなかった。
 けれどだからこそ、そんな彼に酷いことを言ってしまったことを後悔した。

「隆之さん、ごめんなさい。私、とても酷いことを言ってしまった…。」

少し熱が下がって意識がはっきりしてきた頃、由梨は申し訳なさに瞳を潤ませて隆之に詫びる。
 大きな手が由梨の頭を撫でた。

「…いや、俺が悪かったんだ。」

本当はなぜあの場で黒瀬の名前が出たのかということが気になっていた。
 けれどそれを尋ねると、由梨が泣いていたわけを聞かれるような気がして、怖かった。
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