続・政略結婚は純愛のように
「この間、一課の会議に社長が出席した時にね、貴方の話題が出たのよ。」

由梨はまた、コップを落としそうになってしまう。
 一課の会議といえばマリアが来たときの?

「誰かが今井さんの家の様子を社長に聞いたんじゃなかったかしら?でもそんなこと聞くこと自体今までできなかったことのよ。なんだか恐れ多くて。」

それは、由梨にもなんとなくわかる。
 結婚の話が出るまでは長坂じゃないけれど"殿"というイメージが先行して彼にプライベートがあることすら考えられなかった。

「そしたら社長ったら本当に嬉しそうな笑顔で答えて…。私たちそれまで社長と今井さんが二人でいるところを見たことがなかったから、なんだか実感が湧いてなかったっていうのもあるかもしれないけど、夫婦なんだぁって思ったのよ。」

 あの時、ガラス張りの向こうでそんなことがあったとは。
 由梨は驚きを隠せないで山辺の話に耳を傾ける。

「二人ってお家とか会社に都合のいい結婚だったから、本当は仮面夫婦なんじゃないかっていう噂もあったのよ。でも違うんだってあの場にいた全員が思ったわね。逆に言うとさ、企画課のみんなはさ、もうすっかり貴方の味方だからあそこで社長が今井さんを"義務で結婚した相手"みたいに扱ったら、好感度は駄々下がりだったでしょうね。」

そう言って山辺はまたくすくすと笑った。
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