続・政略結婚は純愛のように
「でもね、そんなの気にしていたらやっていられないものね。だって陰口を言う人たちは言うだけ言って、私の人生に責任をとってくれるわけじゃないから。そんな無責任な陰口に私の人生を左右されるなんて馬鹿みたい。私が大事のは夫と子供たちだけなのよ。だから何を言われても平気。」

 山辺は最後のコップをきゅっきゅと拭き上げて戸棚にしまった。
 ピカピカになって並んだコップを前に由梨はなんだか、自分の心の曇りも拭き上げてもらったような気分がした。

「…大切なのは、自分の気持ちですよね。」

 由梨は呟いた。
 それはわかっていた。
 でもそうは言っても辛いじゃないかと嘆く自分が心の中にいて、それに甘えていたのかもしれない。
 自分だけが辛い思いをしているような気になって。

「…ありがとうございます、山辺さん。なんだか私、すごく視野が狭くなっていたみたいです。」

ピカピカのコップをじっと見つめながら由梨はお腹に力を入れた。
 
「誰でも悩みだすと視野は狭くなるものよ。話ならいつでも聞くからね、今井さん。」

山辺は、ハンカチで手を拭きながら、にっこりと笑った。
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