続・政略結婚は純愛のように
「…今井会長には、会えたか。」

蜂須賀が声を落として隆之に尋ねる。
 隆之は頷いた。
 今井コンツェルンの会長である、今井幸仁とは由梨の件で夏に会って以来、顔を合わせていなかった。
 息子のことでは失態を演じたと言わざるを得ない幸仁だが財界のトップにいることは間違いない。
 すなわち、情報が集まりやすい。
 幸仁と秘密裏に行われた会談で隆之はノリスに関するある情報を得ることができた。
 そして、それによって会社が今後取るべき方向性も固まった。

「…葉山マリアから、連絡は?」

 陽二の問いかけに隆之は瞳を閉じた。
 会社を通しての連絡は梨の礫状態で、全く反応はない。
 けれど先ほど、隆之のプライベートの携帯に直接連絡があった。
 隆之は黙ってメールを開く。

"22時、グランドホテル1108"

 用件のみの画面を陽二はしばらく見つめたあとかすれた声で、行くのか?と聞いた。
 隆之は黙ったまま、スカイツリーが浮かぶ夜景を眺めた。

「会長に会えた今、もう彼女に会う必要はなくなったんじゃないか。」

陽二の言葉に隆之は頷く。
 けれどそれでも決着をつけなくてはならない、そんな気がした。

「企画課には申し訳ないが、ノリスは白紙だ。明日からは代替店舗との交渉を全力で行う。…俺は今から、マリアに会いに行く。」

隆之は立ち上がる。
 マリアが指定した時間まであと10分を切っていた。
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