続・政略結婚は純愛のように
「由梨…!待ってたんだ。」

そして由梨の無垢を思わせる清廉な香りを胸いっぱいに吸い込む。
 そうだ、今の俺はこの香りが好きなんだ。

「しゃ、しゃちょ…!」

胸の中で由梨がくぐもった声で抗議する。
 慌てて離れようとする由梨が腕の中で暴れるが隆之は離さなかった。
 背後で黒瀬が笑った気配がした。

「た、た、た、隆之さんダメです!く、黒瀬主任もいるのにっ!」

真っ赤になって怒る彼女が可愛くて頬に軽くキスを落としてから腕を解いた。
 由梨の香りに満たされて、荒れ狂っていた心が少し落ち着いた。

「今井さん、もう業務時間外なんだから僕のことは気にしないで。」

黒瀬が笑いを含んだ声で由梨によびかける。
 由梨は真っ赤な顔のまま隆之を睨んでいる。

「トラブル続きで社長も参っておられるんだよ。完璧なお殿様も人間だからね。」

からかうような黒瀬の言葉に隆之は振り返った。

「業務時間外だと言いながら、こんな時間まで由梨をどこへ連れ回してたんだ。」

「た、隆之さんっ!!」
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