続・政略結婚は純愛のように
由梨が慌てて隆之の袖を引っ張った。

「社長こそ、こんな時間にこんなところでなにを?このホテルは社員はよく使いますが、社長はもっといいホテルをお使いのはずですが?」

 嫉妬心をあらわにした隆之に、黒瀬は愉快そうな表情のまま言い放つ。

「業務を終えたから妻を待っていたんだ。…初めての出張だというのに、携帯に出られないほど忙しいみたいだったからね。」

 由梨があっと呟いて慌てて携帯を確認している。

「心配しないで下さい。百貨店側の接待のあと近くでお茶を飲んだだけですよ。」

由梨がそうですよ、隆之さんたら!と言って再び隆之の袖を引っ張った。
 それでも胡散臭そうに睨んでいる隆之に黒瀬は畳み掛けるように言う。

「僕は貴方とは違いますから、その気のない部下には手を出しません。」

 それが隆之を揶揄しているのは明らかだ。
 隆之は言い返すこともできずに黒瀬を睨み続ける。

「先日の僕の忠告はよく効いたみたいですね、社長。…貴方はいつも明るいところにいらっしゃる。でも光のあるところには必ず影ができるものなのです、お気をつけ下さい。」

 黒瀬の言葉に隆之は頷いた。

「肝に銘じよう。」

「今回は僕は手を引きましょう。可愛い部下を混乱させるのは本意ではありませんからね。でも次はどうなるかわかりませんよ。僕はその気のない部下に手を出したりはしませんが、傷ついて泣いている部下につけ込んでその気にさせてしまうくらいはするかもしれません。」

「しゅ、主任!?」
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