続・政略結婚は純愛のように

一体なんの話をしているのかとでも言いたげに隆之の背後で由梨が声をあげる。
　隆之はその由梨を庇うように背中で隠して黒瀬を睨んだ。

「あはは！大丈夫ですよ。うまくいってるところに横恋慕したりはしません。僕だってクビにはなりたくはないですから。」

「安心しろ、もうこんなことは二度とない。」

「ならいいですが。」

そう言って黒瀬はエレベーターのボタンを押した。

「おやすみ今井さん、また明日。社長、彼女は明日仕事がありますからね。お手柔らかに。」

社内では冷淡だと言われている男とは思えないほど優雅に微笑んで黒瀬はエレベーターに消えていった。
　そのドアが閉まり切ったのを待ちかまえたように由梨が隆之の背をぽかぽかと叩いた。

「もうっ！信じられない！隆之さんったら！」

耳まで赤くして怒る由梨に向き直って隆之はその両手を掴む。

「あの男はお前を狙ってるんだ。」

由梨は潤んだ瞳を見開いてぶんぶんと首を振った。

「そ、そ、そんなわけないじゃない！」

「いや、そうだ。さっきの奴の話を由梨も聞いてただろう？油断も隙もない奴だ。」

隆之は黒瀬が消えていったエレベーターを睨む。

「あれは、隆之さんがちょ、挑発するようなことを言うからです！」