続・政略結婚は純愛のように
 ここしばらくは見ていなかった無防備な彼の笑顔が嬉しくて由梨は笑いが止まらなかった。
 そしてお風呂に入ろうということになったのだ。
 その時になって由梨は気がついたのだが、隆之が取った部屋はスイートだった。

「今日は予約が埋まってて、二人で泊まれるのはここしかなかったんだ。」

涼しい顔で言う隆之に由梨は瞠目してしまう。
 由梨と会えなかったら全て無駄になるというのに、どうするつもりだったのだろう。
 この人はやっぱり加賀家の御曹司なのだと由梨がぐちぐちと考えているうちに、隆之はさっさと先にバスルームへ行ってしまう。
 そして最高の夜景を見ながら入ることができるジャグジーを見つけると、一緒に入るぞと勝手に決めて先に入ってしまったのである。
 由梨はタオルを巻きつけたままバスタブに足を入れる。
 バスタブのお湯は入浴剤で白く濁っているから、入るタイミングとタオルを外すタイミングを間違えなければそんなに見られないだろうと隆之に背を向けながらバスタブに入ろうとしたとき、ザバッと水音を立てて隆之が立ち上がり素早く由梨のタオルを奪い取った。

「きゃあああ!」

由梨は両手で体を隠しながらドボンとお湯に浸かる。

「あはははは!」

隆之がおかしそうに声をあげて笑った。
 由梨は、恥ずかしいのと許せないのとで顔を真っ赤にして隆之を睨んだ。

「ひどい!隆之さん!」
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