続・政略結婚は純愛のように
異動
 酒造見学から数週間後のある日、由梨は隆之に呼ばれて社長室にいた。
 同じ職場で顔を合わせているとはいっても実は由梨と隆之は業務上はあまり接点はない。
 隆之の秘書業務は蜂須賀と長坂という盤石な二人が固めていて、由梨はそのサポート程度しかやることがないからだ。
 従ってその由梨が日中に社長室に呼ばれるのは珍しいことだった。
 部屋には蜂須賀もいて、由梨は緊張を隠せない。

「そこに座って。」

隆之に促されて、由梨は応接スペースに腰かけた。
 由梨が座るとすぐに隆之と蜂須賀も並んで向かいに座る。
 改まっていう話ならもしかしたら良くない話なのではという不安が由梨の頭をよぎった。
 けれど隆之の隣で穏やかな笑みを浮かべる蜂須賀を見てそう不安になることはないと、由梨は自分に言い聞かせた。
 一方で隆之は一片の隙もない社長の顔で由梨を見つめている。
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