続・政略結婚は純愛のように
「アシスタントだからね。使いっ走りみたいなことから始まるけれど、それでも君の今まで蓄積した知識が活かせると思う。」

 企画書を持つ手が少し震えた。
 由梨がやっていたことは趣味の域を出ないものだ。
 とてもそれが会社の役に立つなどとは思えない。
 けれどそれを趣味にしている由梨だからこそ手の中にある企画には大いに興味をそそられた。
 すぐには言葉が出ない由梨に、今まで黙っていた蜂須賀がゆっくりと口を開いた。

「…今井さんが、秘書課からいなくなるのは痛手だがね。何しろ君の書く礼状はずば抜けて素晴らしいし、気立てもいいからね。他の役員から君を秘書にほしいという話は本当に多いんだよ。…普通なら社長夫人を秘書になんて皆恐れ多くて嫌だろうに。それを凌駕する何かが君にはあるんだろう。」

 そう言って蜂須賀は苦笑した。

「でも困ったことに社長は君を他の役員付きにすることになど同意なさらないだろうし、ここしばらく僕もどうしたものかと考えていたんだよ。…このまま秘書アシスタントでい続けるのはもったいないような気がしてね。」

隆之が余計なことを言うなというように蜂須賀をチラリと見るが彼は特に気にも留めずに続ける。

「君はまだ若い、それに能力もあると思う。やってみてはどうだろう。…もちろんこれは強制ではない。今までここで君が築いてきたキャリアも考慮すべきだからね。秘書としての道を選ぶなら僕が社長を説得しよう。」
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