続・政略結婚は純愛のように
「社長。」

由梨ははっきりと言って隆之を真っ直ぐに見た。

「…蜂須賀室長も。私の為にそこまで考えて下さって、ありがとうございます。」

隆之は公私混同だと言ったけれど、由梨が知る限りでは彼は他の社員の人事に関しても同じように心を砕いている。
 彼は出社時大抵、まっすぐ役員室がある最上階に上がっては来ない。
 時間の都合がつく限り下の階にある各部署を回って社員の話を聞いてから、社長室にくるのだ。
 そんな彼を由梨は夫としてだけではなく上司としても尊敬している。
 妻だからと言って特別視せずに他の社員と同じように成長のチャンスを与えてくれようというのが嬉しかった。
 
「私、やってみたいと思います。」

以前の由梨だったら未知のことへの挑戦に即答するなど出来なかっただろう。
 けれど胸が痛いくらいに高鳴って、言葉が口からついて出た。
 やってみたい、挑戦してみたい、ドキドキと鳴る鼓動がそう自分に訴えかけた。
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