続・政略結婚は純愛のように
「蜂須賀は俺とも幼なじみだから、俺に対する遠慮がない。社長の妻だからと由梨を特別扱いすることもないから、安心しろ。」
これには由梨も大いに安堵した。
"特別扱い"は由梨の立場を考えれば仕方がないかもしれないが、それでは仕事にならないだろう。
由梨が秘書室で伸び伸びと働けたのはそういったことに囚われずに厳しく指導してくれた長坂がいたからだ。
「企画課は精鋭の集まりだから、アシスタントとはいえしばらくは大変になるぞ。」
由梨は頷く。
そして直属の上司が隆之でなくなることにちくりと胸が痛んだ。
「だから、家では俺を待たないで先に寝ること。体調管理も仕事のうちと思え。」
社長として何百人もの社員を率いる隆之にしてみれば、由梨がする仕事など本当に些細なものなのにこうやって真剣に話をしてくれるところが隆之が隆之たる所以なのだと由梨は思う。
皆、隆之を"社長だから"ではなく"隆之だから"慕っている。
いつかそれを長坂がカリスマと言ったことを由梨は思い出した。
「…わかりました。ちゃんと先に寝ます。」
由梨は布団に潜り込んで、まだ座っている隆之を見上げた。
「…社長も、ちゃんとご飯食べて下さいね。」
長坂がいれば大丈夫だとは思うが、体調管理も…というならば社内の誰よりも多忙な彼こそもっとしっかりと休むべきだと思う。
そんな由梨の心配を隆之は全然違う方向から聞き咎める。
由梨が潜り込んだ布団に自らも侵入し、両手を由梨の枕について由梨を抱き込んでしまった。
「…由梨。ここはどこだ?」
「え…?」