続・政略結婚は純愛のように
 その日の朝礼で課長の蜂須賀陽二は由梨を紹介した。

「今日から一緒に働くことになる今井由梨さんだ。みんなも知っている通り彼女は我らが加賀社長の奥さんでもある。我が企画課には人手が足りないと俺が社長に愚痴をこぼしたらなんと奥さんを寄越したんだ。全く、社長は一体何を考えているのやら。」

肩をすくめる陽二に笑いが起きる。

「まぁ、そんなわけでやりにくいと感じる者もいるだろうが、俺に免じて許してくれ。もっとも社長からは普通のアシスタントと同様こき使って…おっと、指導していいというお墨付きはもらっている。」

また笑いが起こる。

「まぁ、物産展もあることだしそんなことを気にしている余裕もなくなってくるだろう。責任は俺が取るからいつも通りでよろしく頼む。」

 由梨が抱えている事情は社員なら皆知っている。
 それを改めて声高に宣言し、気にしないようにと言ってくれたことに由梨は感謝した。
 企画課のメンバーは精鋭だと隆之は言ったが、彼らはリーダーである陽二への忠誠心が相当に高いらしい。
 彼が由梨を特別視するなと言ったことで皆一様に安堵の表情を浮かべている。
 社長の妻などという微妙な立場の社員が混ざることに不安を感じていた者も少なくないに違いない。
 由梨はそれを申し訳なく思いながら、だからこそ課に貢献しなくてはという思いを新たにした。
< 49 / 182 >

この作品をシェア

pagetop