続・政略結婚は純愛のように
「この間のミーティングの議題は顧客のニーズについてだったんだ。他社が開催した物産展についての情報が足りなかったんだが、彼女が遠慮がちに出してきた資料にメンバー全員が目を剥いたよ。過去数年間の主要百貨店で開催された物産展の記録だった。お前知ってたのか?彼女は相当な…オタクだぞ?」
「…少しは。」
そう言って隆之は笑った。
生真面目な字で書かれたオレンジ色のファイルが頭にうかんだ。
「参加店舗、出品品目、それから値段まで事細かに記録されていて、ご丁寧にそれに対する考察までついていたよ。今の二課にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だったからな。…黒瀬にこんなものを持っているならなぜ早く言わないとどやされてて、おかしかったな。」
陽二がまた、くっくっと笑う。
「とにかく、あれで皆んなの彼女をみる目が変わったんだ。実家が厳しくて、外出はあまりいい顔をされなかったけれど百貨店なら自由に行けたからなんて顔を赤くして言うのに、皆で笑ったよ。どこの世界に、百貨店のブランドショップをスルーして物産展に通うお嬢様がいるんだって。まぁ、そんなことを言われるくらい彼女は溶け込んでる、安心しろよ。」
隆之は頷いてウイスキーのグラスを揺らした。
カランと氷が音を立てた。
「…でも。だからこそ心配か。」