続・政略結婚は純愛のように
 エントランスには由梨が予想していたよりも沢山の人がいた。
 全員の出動命令が出た企画課以外からも多数の社員が二人を待ち構えている。
 業務時間内だとはいえ、歓迎の表れとなるだろうから黙認されたようだ。
 しばらくすると黒い高級車が滑り込むようにして入ってきた。
 先に降りたのは隆之だった。
 長い冬の訪れを感じさせる冷たい風を背に少し癖のある黒い髪をなびかせて降り立つ姿に一部の女子社員からため息が漏れる。
 そして颯爽と車を回り込み、後部座席のドアを開ける。
 彼に手を取られて、背の高い女性がおりた。
 葉山マリアだ。
 テレビで見るようなセクシーな服でもなく派手なメイクもしていない。
 ダークカラーのスーツに身を包み、明るい色の長い髪はきちんとまとめられているけれど、ひと目で彼女だとわかる存在感はさすがと言うべきだろう。
 社をあげての歓迎にも驚く様子もない。
 見られることに慣れている自信がありありと見て取れた。
一方で隣に並ぶ隆之も負けてはいなかった。
 長身のマリアにも負けない体格、揺るぎない自信。
 スマートな身のこなしで彼女をエスコートする様に、由梨の胸は騒いだ。
 きっと恋人同士だった頃もこんな風に完璧な二人だったに違いない。
 何が原因で離れたのかは知らないが、これが本来の隆之の姿なのだ、そんな考えが浮かんだ。
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