続・政略結婚は純愛のように
「今井さん、ちょっと。」

　声をかけられて振り向くと黒瀬が難しい顔をして立っている。

「はい…？」

「ちょっと来て。」

黒瀬はそれだけ言うとこれまた課に併設されているミーティングルームへ札を使用中にしてから入っていく。
　由梨も後へ続いた。
　ミーティングルームは大会議室のようにガラス張りではない。
　中に入ると黒瀬は厳しい表情のまま振り返った。

「…同情はするよ。」

黒瀬がさっきのエントランスでのことを言っているのだと気がついて、由梨は俯いた。
　惨めで弱い自分を見透かされたようで恥ずかしかった。

「くだらない噂をする奴らはどこにでもいるさ。いちいち気にしていたら身がもたないだろう。…とくに君みたいな特殊な立場の人間は。

「…はい。すみません。」

　由梨は反射的に謝ってしまう。
　けれど少し面食らってもいた。
　由梨が企画に異動になってから今まで黒瀬が由梨の境遇についてはっきりと口に出したのは初めてのことだ。
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